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Betelgeuse's Diary

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「ポアンカレとパン屋と正規分布」おとぎ話の広まりメモ

「ポアンカレは販売されているパンの重量を疑い測り続けた」逸話は創作のようですが、数学の例題としてなら「ある数学者が」で済む話に人はなぜ偉人の名前を使おうとしてしまうのか、面白い話です。

「ずんだ餅は伊達政宗が作った」などの架空の話もそうですが、聴いたことのある人名と物やエピソードを組み合わせると語りやすい・記憶しやすいのかもしれません。

2000年5月
http://everything2.com/title/%2522true%2522+story+about+Poincar%25C3%25A9%2527s+baker

Sun May 07 2000 at 21:59:31
Henri Poincaré, the famous French mathematician, once grew suspicious and started to weigh the bread loaves he was getting at the bakery. Indeed, he discovered that the average weight was 900 grammes (rather than 1 kg, as required). Accordingly, he reported the matter to the prefecture.

Some weeks later, friends asked him if the baker had stopped cheating, and if he was satisfied. "Oh no, he's still cheating," he replied, "but I'm now getting full weight loaves, so I'm satisfied."

Mystified, they asked him how he could know this, if he wasn't being cheated any longer. His reply? "I continued to weigh my bread; its distribution is now that of a normal distribution around 900 grammes, but truncated below 1 kg -- I only see the part of the distribution above 1kg."

In non-mathspeak, this means the baker was still cheating on the loaves, but giving Poincaré only those deviants with higher weights.


2000年に掲載された話では、ポアンカレが買ったパンは「900g」になっています。




2001年
ペンキの厚さの分布と信頼区間では「客は統計学者だったので」バージョン、ポアンカレは登場しません。最古のキャッシュは2001年4月10日

この類例としてよく挙げられるものに,「不誠実なパン屋の話」があります。

出入りのパン屋が届ける食パンの重量がいつも不足しているのに気がついたとき,実際に毎日食パンの重量を測り,平均値を出します。

結果その1:平均値は確かに言われている重量より低かった
要求その1:平均値が定められた重量になるように要求する
また,毎日食パンの重量を測ります。

結果その2:平均値は定められた重量になったが,多い日もあり少ない日もありばらつきがはげしい
要求その2:ばらつき(分散;標準偏差)を小さくするように要求する
また,毎日食パンの重量を測ります。

結果その3:平均値は定められた重量より重くなった。それと同時に平均値より軽いパンが届くことがほとんどなくなった。重量の分布を描くと,下図のようになっていた。
食パン重量の度数分布図
解釈:パン屋はうるさい客への対応として,届けるパンの重量を事前に測って,基準に満たないパンは持ってこなくなった。
この客は統計学者だったので,「このパン屋は不誠実である。誠実なパン屋は定められた重量を平均値として,ばらつきがなるべく小さくなるようにすべきである。そのようにしたとき,平均以下の重量のパンが届くのは50%くらいはあるはずだ。もっとも,その場合でも許容できる重量不足の程度は問題とする。」と,結論づけました (^_^;)







2002年4月30日
Bart K. Hollandが”What Are the Chances?: Voodoo Deaths, Office Gossip, and Other Adventures in Probability”を出版。p.41の下段からこのエピソード。書中に出典はない。
[amazon.com][Google Books]





2004年
バート・K. ホランドの上記著書は日本語に翻訳されて出版される





2008年
たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する 2009年9月17日 レナード・ムロディナウ (著), 田中 三彦 (翻訳)
 (原著 The Drunkard's Walk は2008年5月13日)
ホランドの「ポアンカレ」関連記述がそのまま使われています。





2009年
日本でのこの寓話の内容は、まだ「不誠実なパン屋の話」「客は統計学者だったので」、グラム数は特になし。
統計数字を読み解くセンス―当確はなぜすぐにわかるのか? 2009年11月30日 青木繁伸 (著)




~2010年
ここによると上記「ポアンカレ」「950g」パターンは

数学セミナー 2010年9月号 通巻 588号 P.35

にも掲載されているらしい。







~2013年
ホランド著の上記は総務省統計局のサイトで参考文献として使われる。このページの最古のキャッシュは2013年4月13日なので、それ以前からある。
なるほど統計学園高等部 | 正規分布[archive]

変わった正規分布の使いみち その1
 フランスの数学者、ジュール・アンリ・ポアンカレ(1854-1912)は、毎日パンをひとかたまり買うことを習慣にしており、その重さは1kgといわれていました。彼は一年間、買ったパンの重さを計り続けたところ、パンの重さが950グラムを平均とする正規分布となることがわかりました。つまり、平均して50グラム少なかったわけです。
 この事実を警察に訴えると、警察はパン屋に警告を与えました。彼は、その後もまた1年間のパンの重さを計ったところ、一番頻度が多かったのは950グラムでしたが、今度の分布は左右対称ではありませんでした。分布の右半分(重い方)の裾は前と同じでしたが、左側(軽い方)の裾は短かったのです。つまり、パン屋はやり方を変えずに、また苦情を言われないよう、いつも手元のある大きめパンを彼に売っていたことをデータから見抜いたのです。パン屋はこの事実をポアンカレが見抜いたことに驚いたそうです。
 正規分布を元にした考え方は、現在においても、商品の不良品を少なくするために、工場における商品管理などで使用されることがあります。

■参考文献
確率・統計で世界を読む (白揚社)、バート・K. ホランド(著), Bart K. Holland (原著), 林大 (翻訳)






この逸話の扱い
N.Y.Cityのまちかど - science_anecdote

時々思い出そうとして、内容を忘れてしまう、科学にまつわる逸話をメモ。 (内容が興味深ければOKで、実話であるか否かは問うていませんのでご了承ください)






2013年
ニュートン誌にも載ったらしい


※Think Stats初版は2011年7月7日。








2014年
http://ruby.kyoto-wu.ac.jp/~konami/Text/Stats20140319Resume.pdf

統計の世界 小波秀雄 京都女子大学現代社会学部


この話は実話ではないようだが,さらに尾ひれがついている。件のパンの質量の分布は平均値が950 g, 標準偏差が 50 g の正規分布だったというのだ。
さて,パン屋がポアンカレに渡したこのパンは,全体の何%のうちからだろうか?






2016年9月21日




数千RT単位で広まっています。




過去に似た内容の統計話があったらしい




「ネットロアをめぐる冒険」さんでより突っ込んだ部分を探されているそうなので、綿密な話はそちらに期待しています。



「ネットロアをめぐる冒険」さんで追加情報が記事になっていました。
ポアンカレとパン屋の逸話は本当か、カントが言っていないとしても - ネットロアをめぐる冒険
「パン屋の不正を学者が告発」パターンはジョージ・ガモフ『数は魔術師』(白揚社、1958年) までさかのぼるそうです。


→ 英語版のPuzzle-math(George Gamow & Marvin Stern, Macmillan, 1958)はGoogleブックスで検索できます。ストーリーに登場するのはKarl Z. 博士で、これを著者に第二次大戦後のハンブルクでの実話と語ったのはKarl Gaede博士でした。カールが2人いてまぎらわしい。
※該当ページがpdfで見れます。



ここまでの結論は
・1958年に、ガモフ&スターン著の本で戦後ハンブルクで買ったパンを量る話。内容は「カールZ博士、200gが195g」。

・日本では出入りパン業者のごまかしを見破る統計学者の寓話となったようだ。

・2000年に、買ったパンを量る話がある。内容は「ポアンカレ、1kgが900g」。
・2002年にホランドが実話として本に記載。内容は「ポアンカレ、1kgが950g」。
・2000年代にホランド著の内容は徐々に普及していった。
・2013年ごろからホランド著の内容は総務省サイトに掲載されている。
・2014年に京都女子大では「実話ではないようだが」注釈つきで利用。
・2016年にはツイートで数千RTされている。


この件はどこまで遡っても、パン屋が不正をしていることを統計に詳しい人がやり込める実態のない小噺のように思えます。



伊達政宗の眼帯(1942年映画で目に矢が刺さる創作から始まる)松永久秀の自爆(川角太閤記での切腹後の話から切腹が抜け落ちた)ゼークトの組織論(大モルトケあたりから続くドイツ軍幹部人事話で兵とは関係ない)など、ある時点で話が転がりだすものはいつも面白がって記事にしています。
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